坂本健二のドイツサッカー指導論

坂本健二-デットマール・クラマー
「日本サッカーの父」と称されたグラマー氏とも面識のある坂本健二氏。
そんな坂本氏に日本人とドイツ人の違いや、ドイツの育成年代に関して、指導者として心がけていることなど多岐に渡るお話を伺わせていただきました。
大変貴重なお話ですので、ぜひご覧ください。
※上記写真はグラマー邸で撮影。

プロフィール

1960年、東京都出身。
82年~89年山雅SC(現松本山雅FC)にてプレー(85年北信越リーグ優勝)。
98年38歳にてサッカー留学のために渡独。
99年~02年SVヴェルダー・ブレーメンのU16、U13、U9などの指導者を歴任、01年にはクラブ史上初のコーディネーション・コーチにも抜擢された。
その後FFCヴァッカー・ミュンヘンの成人女子チーム(4部リーグ)やSVハイムシュテッテン(4部リーグ)のU19~U6の幅広い年代で指導経験を積む。
06年日本人初、FCペンツベルクでアカデミー・ダイレクターに就任、7チームを統括。
13年~14年ブンデスリーガ公式サイト編集者として活躍。
15年指導者DFB・エリート・ユース・ライセンスを取得、日本へ帰国した(在独歴16年)。
帰国後は日本各地にて指導者講習会の講師を務める傍ら、ドイツサッカー協会の指導強化DVDや育成書籍「ジュニアサッカー 指導の手順と練習法(東邦出版)」などを翻訳、サッカー専門誌「サッカークリニック」などへ寄稿している。

選手歴・指導歴

ーーまずは選手歴・指導者歴をお伺いしてもよろしいでしょうか?
サッカーを始めたのは小学5年生からで、東伏見駅の近くに早稲田のグラウンドがあるんですけど、毎週日曜日にそこでサッカーを教えてもらってました。
ーー少年団でサッカーを始められたんですね。
その後はいかがですか?
中学は学校のサッカー部に所属して、その後は高専ってご存知ですか?
ーー5年間一貫教育の学校ですよね?
はい。
中学卒業後はそこの高専サッカー部に入って、卒業後は、松本山雅FCの前身になる山雅サッカークラブでプレーして、東京に戻ってきてからは、府中リーグ・三鷹リーグ・八王子リーグなんかでプレーしていました。
ーー様々なリーグでご経験されてますね。
その後、ドイツに渡られたんですか?
ドイツには38歳の時に渡たりました。
ただプレーに関しては、32歳以上のチームと2軍の両方で続けました
ーー選手としてドイツに渡られたのでしょうか?
いえ、いえ。
指導者ライセンスを取るためと、クラブライフを味わうためにであって、選手としてではありません。
ただ、先ほどもお伝えしたように二つの成人チームでプレーはしていましたけどね。
ーーそういうことですね。
ドイツに行こうと思ったきっかけを教えて頂いてもいいですか?
私は元々指導者になろうとは思ってなかったんですけど、とあるきっかけで、33歳の時に三鷹の小学生のチームを教え始めたんですよ。
そうこうしていると1年後に、指導者ビデオを作っている会社の40周年記念で、サッカーの指導者に対するドイツ視察・研修旅行の企画があって、それに参加したのがきっかけですね。
ーーそれは凄い。
正に運命ですね。
そのときは短期間ですよね?
はい、1週間ほどでした。
そこに、ペーター・ケーニッヒという、後にブランメル仙台(現在のベガルタ仙台)でスポーツディレクターをする方なんですけど、その方が講義と実技を担当されました。
そして彼の下に当時16歳の日本人の青少年が指導者ライセンスを取るために居候をしてたんですよ。
現地では彼がほとんど通訳をしてくれて、ちょうど彼が勉強していることなんで、専門用語もきちんと翻訳・通訳してくれて、そんな姿を直に見て海外でライセンスを取るのも良いなと思ったんですね。
ーーなるほど。
まさに人生の転換点ですね。
そうですね。
日本の指導者ライセンスも上げていきたいなと思っていたんですけど、当時の日本だと上にいくとなかなか窮屈なルールがあって、逆にドイツはやる気さえあればオープンだっていうので、ドイツでライセンスを取ることにしました。
ーー渡りに船というか、タイミング的にも良かったんですね。
はい。
ただ、本格的にドイツに渡るのは、94年に初めて行ってから4年経ってしまいましたけどね。
ーーその間にモチベーションも下がらず再度ドイツに渡られるなんてすばらしいですね。
ちなみに、ドイツには通算すると10年以上行ってたんですよね?
そうです。
途中で1年ほど日本へ戻っていた時期もあるんですけど、全部合わせると16年です。
ーードイツに渡る前に、語学の勉強はされたんですか?
一応ベルリッツに124時間通って勉強したんですけど、今から思えばほとんど意味がなかったかなと(笑)
と言うのも、毎週土曜日に10時限ずつ受けたんですけど、それだと脳に入るのも多いんですがこぼれるのも多いんですよ…。
ーーたしかにそうなりそうですね(笑)
じゃあ語学は現地に行ってから覚えられたんですね。
そうですね。
ドイツに行って語学学校にも8カ月通ったんですけど、今思えば幸運だったのが、現地に行ってすぐに小学5・6年生のチームを持つことができたんですよ。
ーーえっ、すぐにですか?
はい。
だから練習中に集まったときもシーンとしちゃって、「コーチなんも喋べらへんけど、何したらええねんみたいな」空気感になっちゃって(笑)
更に子供たちだけじゃなくて親もいるでしょう。
親から話しかけられたり、家に居るときに電話が鳴ると最初は恐怖でしたね…。
ーーたしかにそれは恐怖ですね(笑)
でも、そこまで追い詰められたので、習得できたのかもしれないですね。
それはあったかもしれないですね。
ーーでも、言葉が喋れなくても、チームを持たせてくれるなんてずいぶんとドイツは寛容ですね。
そうですよね。
日本だったら、まず日本語を喋れるかどうかは絶対に確認しますからね。
ドイツでは、やりたい奴がいて(コーチの枠に)空きがあるなら、やってもらえば良いじゃんっていう考えですから。
ーーすばらしい。
そこではどのくらいの期間指導されていたんですか?
そこは1シーズンでしたけど、その後は今大迫選手が所属しているSV ヴェルダー・ブレーメンへ移りました。
指導対象としては、強いていえばやっていないカテゴリーはU11くらいで、U7~U19までほとんどすべての年代を担当しました。成人女子チーム(4部リーグ)を指導していたこともあります。
ーーすごく幅広く指導されていたんですね。

日本人とドイツ人の違い

ーー日本人とドイツ人に違いは何かありますか?
練習中でも試合中でも、日本人はあまり喋らないじゃないですか。
それに比べると、ドイツ人はよく喋りますね。
ーーたしかに日本人は、海外の方と比べるとシャイというか、自己主張が弱いですもんね。
試合中の声掛けなんかはそうだと思いますけど、戦術的なことも話したりはしますか?
戦術に関しては話し合うまではいかないですけど、でも、それぞれの言い分はありますよね。
日本の場合は我々指導者がどう思う?って問いかけても、ほとんど何も出てこないですね。
ーーなるほど。
出てこないのは喋り慣れてないからとか、恥ずかしいっていうのもあるんでしょうけど、実は「考え自体がないから」というのが一番の根幹ですね。
ーーたしかに、そちらの理由もあり得そうですね。
日本人の場合はトップダウンで決められることが多いので、『思考停止状態』になってしまっているのかもしれないですね…。
ちなみに、技術面での違いはありましたか?
坂本健二-指導2001/02シーズンSV Werder BremenU12のコーディネーション・トレーニング
最初98年に指導者講習へ出たときに、跨ぎフェイントがテーマとしてあったので、これをチームに戻って指導してほしいと言われたんですけど、当時教えていた子供たち(小学5・6年生)の誰一人としてできるようになるはずがないって思うくらいのレベルでした(笑)
ーーえっ、意外です。
でも、ドイツは世界で通用する選手を多く輩出していますよね?
そうですね。
サッカー協会が取り組んだ『跨ぎフェイントとかボールテクニック』を含むいわゆる育成の大改革を経て、後に大成したのがトーマス・ミュラーとか、ノイアーとか、フンメルス、ボワテング、ロイスとかですからね。
ーー世界的なスターが育ってますね。
幼少期はむしろ日本人のほうが上手いくらいなのに、どうしてこんなにも差が付くんですかね…。
やっぱり、日本とドイツの指導の差って大きいのでしょうか?
大きいと言わざるを得ないでしょうね。
日本は「戦術的な要素は何なのか?」、「どれが最重要な要素なのか?」っていうのは教えずに、このシチュエーションの場合はここを見なくちゃいけないとか、型を教えているだけなんですよ。
ーーなるほど。
ただ、数学の公式を丸暗記しているだけの感じですね。
はい。
本来は状況によってそれぞれの要素が上がったり下がったりなど変化すると思うんですけど、その判断基準が何なのか、例えば相手が後50㎝近付いてきたらパスを出さなくちゃいけないのかとか、それとも30㎝近づいてきたら逆サイドにパスを出さなくちゃいけないのかとか、本来基準があるんですけど、日本人はその要素を見つけ出してないし、基準と照合して判断を下していないんです。
なんとなくこういう時は出しておけばいいんじゃない?って感じなんで、だから後でなんであの時あいつにパスを出したんだって聞かれると、『えっ?それは、…』ってなっちゃうんですよ。
ーーなるほど。
なかなか根深い問題ですね。
これは指導の問題なのでしょうか?
もちろん教えている側に問題はあるんですけど、受け取る側にも多少問題があると思います。
ーー受け取る側もですか?
ドイツ人は、何かを教えたときになかなか上手くならないんで、こんなに上達しないってどこかおかしいんじゃない?って最初感じたんですよ。
でも逆に、日本人は2時間でこんなに上手くなるんだって関心するんですけど、1週間後には元に戻ってるんです…。
ーー日本人の場合は納得・理解していないので、抜けるのが早いということでしょうか?
そうです。
ドイツ人の場合は、この練習は何の目的でやってるのかとか、うまくいかない理由は何なんだろうかっていうのを考えながらやっているので、うまくなるスピードは遅いんですけど、確実に自分のものになるんですよ。
ーーなるほど。
長い目で見れば、しっかり自分の頭で考えて納得して、自分のものにしたほうが良いんですね。
はい。
あと、おもしろいのが、プレーの意図や理由を聞くとドイツ人はバァーっと出てくるんですけど、日本人は出てこないケースがほとんどで…。
ーーこういった差が生まれるのはなんでなんでしょう?
学校教育からして違うんですかね?
そうですね。
教育はドイツ語で『エアツィーエン』って言うんですけど、『エア』というのはいろんな動詞に付く前綴りで、それを取って『ツィーエン』だけだと引っ張るっていう意味なんですね。
要するに生徒一人ひとりにポンテャシャルがあることを信じて、彼らの中から持っているものを引きずり出そうという考え方なんですよ。
ーーなるほど。
その子を信用しているんですね。
はい。
1人の人間として認めて何か良いところはあるだろうと信じて、それで、いいところを引き出そうとするのがドイツの教育なので、日本の詰め込み式の教育とは明らかに違いますよね。
ーー詰め込み式の教育が、受動的というか思考停止にしてしまうのかもしれませんね…。

ドイツの育成年代事情

ーー現在ドイツの育成年代で問題になっていることはありますか?
今ドイツで問題となっているのは、U9・U11はものすごい選手の登録数が増えていて、特に女子はことさら増えてるんですけど、ただ、U17・U19の選手登録者数は減っているので、少子化も始まっていますし、今後はたくさんの子供をただ捕まえるだけではなくて、しっかり捕まえ続けようという流れになってます。
ーーしっかり捕まえるためにはどうしたら良いのでしょうか?
サッカーのおもしろみである「醍醐味」や「奥深さ」をしっかり伝えるように指導をすれば、おそらくその後U17・U19になってもクラブから離れないので、まずは、おもしろみを伝えることが大切だと思います。
ーーサッカーを嫌いにさせないようにってことですね。
いいえ、嫌いにさせないというよりは、好きにさせるってことです。
嫌いにさせない・好きにさせるっていう言いかたもそうですけど、日本の場合は『負けられない戦いがそこにはある』って言うじゃないですか。
ーーはい。
でもこの言葉の解釈だと、『引き分けは良い』ってなるじゃないですか(笑)
ーーたしかにそうですね(笑)
ドイツだと、まず、勝とう!、相手をぶちのめそう!ってなりますから。
負けられない戦いがあるなんて、そんなひ弱な事は言わないんですよ(笑)
ーーなるほど。
それがゲルマン魂に繋がっているんですね。
そうだと思います。
ただ、ゲルマン問わず欧米人はそうなのかなと。
ーー他にも何か違いってありますか?
あとは、わかりやすいところでいくと、日本人は疲労や苦労で達成感を覚えるんですけど、ドイツ人は勝利や成功で達成感を覚えるんですよ。
ーーわかる気がします。
日本は社会人でも残業が多いと評価されたりしますからね。
そうなんですよ。
これは日本で実際にあった話なんですけど、小学生年代の夏合宿に同行することになったときに、保護者の代表・副代表の方たちから、昨年はバスの帰りに子供たちが騒いでいたので、疲労困憊で寝てしまうくらいの練習をしてほしいって依頼されたんですよ。
ーーどうせ合宿へ行くなら、徹底的に練習をしてほしいってことですね。
はい。
でも、「私は練習は集中してやることが大事だと思いますし、子供たちのエネルギーを奪う・奪わないが合宿の善し悪しを決めるわけではないので、それはできません」とお断りしましたけどね。

レギュラー・サブ組問題

ーー日本だと、レギュラーとサブ組の固定化の問題があるんですけどドイツではいかがですか?
ドイツでもなくはないですけど、根本的に違うのは、例えば7人制のサッカーをU11までやってますけど、1チームの大きさは10人くらいですね。
スタメンは7人なんで、3人が私の横にいて「いつ僕出るの?」、「誰に代わって、僕出るの?」って、私の服を引っ張りながらまとわりつきます(笑)
ーーかわいいらしいですね(笑)
ちなみに、日本だと中学年代の例なので比較できないかもしれませんけど、1学年に30人・40人いるチームもありますからね。
そこが大きな間違いなんですよ。
U13が9人制でU15から11人制になりますけど、11人制でも1チーム16~18人くらいですね。
20人もいると我々指導者は困っちゃうんですよ。
ジュニアユースの場合は交代枠は4人までなんで、5人は置いて行くしかなくなってしまうので…。
ーーそもそも連れていかないんですね?
私は連れて行かなかったです。
だって、試合当日ユニフォームは着たけど、試合には出られなかったって選手にとって最悪ですよね?
ーーはい、時間ももったいないですね。
試合の予定は前もってわかっているので、この日に残る子は誰と誰とか、ローテンションにして、文句がでないように全員に対してフェアになるように考えていました。
ただし、練習への出席率が全員ほぼ同じであればです。
ーーそこは日本とは全然違いますね。
日本だとベンチには入れなくても一緒に連れて行くケースが多いですからね。
本来はチームじゃなくて、もっと上の方で考えなくてはいけなくて、例えば選手登録をする段階で20人を超えたら登録を認めないとかね。
そのくらいしないと、現在の劣悪な状況は変わらないと思います。

日本の部活動に関して

ーー日本の部活動に関してはどう思われますか?
私見ですけど、まずは学校の部活動を地域スポーツクラブへ置き換えたらいいと思います。
ーーそれはなぜでしょうか?
学校なのでどうしても教育という概念が出て来て、それがスポーツ活動に対して邪魔をすることが多いからです。
学校の教育として体育の延長のような形で行われてますけど、でもサッカーはスポーツであって教育ではないですからね…。
もちろん教育的見地もあるし、指導者のやるべき要素としても「教育」は入ってきますけど、最初から教育という発想には当てはまらないと思います。
ーーなるほど。
たしかに教育という観点だと、サッカーがうまくなるという本来の目的からはズレてしまう可能性がありますね。
まさにそこなんです。
あと、先ほどのレギュラーとサブの話ではないですけど、11人が出て8人ぐらいがベンチに座って、さらにその3倍から5倍位の選手たちが観客席でメガホンを持って応援してるじゃないですか?
ーーよくある強豪校の様子ですね。
ドイツ人に応援席にいるユニフォームを着ている子供たちも選手だし、3年間で公式戦に1度も出れない選手もいるって伝えたら、「信じられない」ってめちゃくちゃ驚くはずです。
ーー日本にいるとそれが普通だと感じてしまいますね。
ドイツ人は出場機会がないことに我慢ができないので、試合に出るためにクラブを移籍するケースは日常茶飯事ですから。
つまりドイツでは、「スポーツはやって、なんぼ」なんですよ。
ーーなるほど。
それだと、先ほどのベンチにも入れずに、メガホンを持って応援しているなんて考えられないですよね。
はい。
日本人は『人生には我慢が付き物』や『耐え忍んだ先にこそ、花が開く』っていう教えになっていますし、中学や高校だと転校も伴うので、移籍のハードルってめちゃくちゃ高いですからね…。
ーーたしかにクラブチームであれば、学校が変わる訳ではないので、移籍も容易になりますね。
はい。
なので、サッカーと教育を分離しないと解決しない問題だと思います。

ドイツの体育・部活事情

ーードイツの学校における体育部活事情はどのようになっているのでしょうか?
20年くらい前、ドイツは体育の授業を削って、スポーツはクラブに任せて学校は勉強に専念しようってなったんですけど、その結果スポーツが嫌いな人が何もやらなくなっちゃったんですよ。
ーーたしかに運動嫌いな子は強制されないとやらなそうですね。
そうなんです。
それなので、最近は体育の授業が、また増えてきてます。
ーー部活事情はいかがですか?
サッカー部自体はありますけど、試合はきっと年に10試合もしないんじゃないかなと…。
ーーそれだとクラブチームに入らない限りは、お遊びのようになっちゃいますね。

指導者として心がけていること

ーー坂本さんが指導者として心掛けていることを教えて頂いてもよろしいでしょうか?
選手を信頼して、その選手が持っているポテンシャルをきちんと引き出せるように手助けをしてあげるということですね。
そしてチームが一丸となって、相手チームを倒すために戦うことを実践することです。
ーー先ほどのドイツ教育の『エアツィーエン』ですね。
はい。
あとは、試合での主人公はあくまでもチーム・選手たちなので、私はそれぞれが持っているいいところを引っ張りだして組み合わせて、良くないところはできるだけ90分間隠して相手に見せないようにしています。

印象的な選手

ーー坂本さんが今まで指導されてきて、印象的だった選手っていますか?
今はもう30歳くらいで、ドイツ3部リーグのクラブ1.FC マークデブルクで左サイドバックとしてプレーしているんですけど、ブレーメンのU13時代に教えていた『ティモ・ペアテル』というFWの子は印象的でしたね。
このチームは1シーズンしか見ることができなくて、クラブを去らなければならかったんですけど、最終日に挨拶を済ませて帰ろうとすると、ティモだけが追いかけてきて、「行かないでよ。なんとか残れないのか」と言ってきてくれて。
※ティモ・ペアテル
https://1.fc-magdeburg.de/profis/spieler/timo-perthel/29
ーー指導者冥利につきますね。
あと、とあるチームと1週間に2回対戦したことがあって、1回はリーグ戦で、もう1回はトーナメント戦になるんですけど、相手チームの7人がベタ引きでペナルティエリアの中を固めて、攻撃は3人だけっていう作戦だったんですよ。
且つ、キーパーは大きくてセービングが上手な子で。
ーーモウリーニョのような戦術ですね(笑)
我々の方が総合力は上回っていたんですけど、ドリブルでも2人はかわせるけど3人目で引っかかるとか、ボールを入れても人数は相手の方が多いしキーパーもうまいのでことごとく跳ね返され、まったくうまくいきませんでした。
結局速攻から一点入れられてしまい、試合に負けてしまったんですよ。
それがトーナメント戦だったので、本来本命であるべきSV ヴェルダー・ブレーメンの早期敗退が決まり、チームとしてだけでなく、クラブとしてもかなり良くないことでした。
ーー普通に戦って負けるならまだ納得がいきますけど、それは余計に悔しいですね。
その2・3日後の再戦(リーグ戦)を前にしてクラブハウスで戦術ボードを使って「今度はどう戦うべきか?」を説明したら、ティモは「もっと聞きたい」って言ってきて。
それくらい戦術の話を聞くのが好きな子でしたね。
ーーその時の戦術ってどんな戦術になるんですか?
DF7枚とセービングのうまいキーパーなので、サイドのクロスをキーパーより前で合わせて、つんと入れる『アーセナルゴール』しかないだろうっていうことを伝えました。
つまりセンターフォワードだったティモは、センタリングの行く先を見てボールに合わせてシュートを打とうとするのではなくて、センタリングが上がると見たら、闇雲に相手GKの前へ行き、頭でも足でもいいから触ってボールをゴールへ入れる。
もし仮に、そこへボールが来なくてもティモは何も悪びれる必要はない。
なぜなら、我々のゴールはそこでしか引き起こらないわけだから、というものでした。
ーーなるほど。
結局試合はどうったんですか?
相手GKがセンタリングをファンブルして下へ落としたボールを、GKの目の前まで詰めていたティモ・ペアテルが、つま先で押し込んで、1-0で勝ちました。
ーーすばらしいですね。
こういう試合での活躍もそうですけど、サッカーに関する熱さとハートの温かい選手がプロになるんだなって、このティモ・ペアテルと出会ってしみじみと思いました。
彼はその後、U18、U19、U20のドイツ代表選手になりました(13試合出場2得点)。
2011年にはシュトゥーム・グラーツ(オーストリア)のレギュラーとして活躍し、優勝に貢献しています。

現在の活動に関して

ーー坂本さんの現在の活動状況に関してお伺いしても宜しいでしょうか?
今は翻訳・通訳だったり、あとは指導者講習会の講師をやったり、専門誌へ執筆活動をしたりと、幅広くサッカーに携わる活動をしています。
あとはドイツ製のサッカーで使うトレーニング器具や戦術ボード、マグネットの代理販売も行っています。
(※ご興味のある方はこちら➡︎)ドイツの優れもの〜サッカー指導者の必需品〜
ーー講習会はどのようなものになるのでしょうか?
チームにお伺いして講義と実技を実施することもありますし、私の方で講義場所・グラウンドを借りて実施することもありますが、ともかく座学の講義だけではなく、参加者自身が体験と聴講の両方を通じて理解する場を提供しています。
坂本健二-講習会実技編
※指導者講習会「ドイツ流サッカー伝承講座 〜世界基準へ近づくために〜」の実技風景
ーー座学と実技が一緒というのは、理解が深まりそうでいいですね。
ありがとうございます。
ーー日本の現場で指揮をとることは考えてないんですか?
もちろんやりたいんですよ。
ただチームが見つかってないんで、なんとか見つけたいなとは思うんですけど、その経験とライセンスじゃ高いですよねって敬遠されてしまうことも多いですし、上を見てJリーグの育成なんかだと、それはそれで難しくて…。
ーーなぜJリーグの育成に携わるのは難しいのでしょうか?
序列が崩れそうとかでしょうか?
そうですね。
海外で勉強してきた日本人指導者がJリーグに入ると、あいつのチームは実験室になってるとか言われたりするんですよ。
それだけ異質なサッカーをしてるってことだと思うんですけど、 ドイツ問わずスペインや他の諸外国で経験のある指導者がチームに入っても、その指導者中心にはならないんですよ。
ーーなるほど。
日本人は島国根性ではないですけど、なかなか異質のものを認める文化ってないですもんね…。
そうですね。
それなので、最終的には自分でクラブを立ち上げるパターンが多いですね。
ーーちなみに、チームの立上げとかは考えられてないんですか?
自分はそれはしたくないんですよ。
自分のパラダイスができてやりやすいとは思うんですけど、それだと日本のサッカーを変えるというところまでにはなかなかいかないので、既存のクラブの他のコーチも巻き込んでやっていきたいなと思っています。
ーーたしかに。
仰るとおりですね。
そこまで使命感をお持ちなので、どこかのチームでぜひやっていただきたいです。
ドイツでは担当したこともあるんですけど、『ユーゲントライター』っていう役割があるんですよ。
U9~U19までのすべてを司る日本で言えば育成部長のようなポジションになるんですけど、それに就ければ良いなって思ってるんですけど、そもそもそのポジション自体が日本にはないですからね…。
ーーそうなんですね。
どうして日本だとそのようなポジションはないんでしょうか?
Jリーグクラブだと強化部長と育成部長と分かれて存在していることも多いですが、町のクラブではそんな人まで雇えないですし、仮に金銭的に余裕があったとしても、そんなポジションまでは考えてられないでしょうからね…。
ーーこういうのはやっぱり歴史の差なんでしょうか?
そうだと思います。
ドイツでは町クラブでも『ユーゲントライター』っていうポジションはありますから。

ドイツとの関係

ーー日本とドイツのサッカーの関係性ってどうなんでしょうか?
最近の日本代表戦で、「ディフェンスの三角形」とか「バナナ」がちらちらと見えるんですよ。
ーー(バナナ…)
バナナってなんですか?
ディフェンスが横一列ではなくて、バナナのような形で斜めに並ぶ守備陣形なんですけど、この前ちょっとこれっぽい形があったんですよ(2019年10月15日W杯アジア予選 タジキスタン戦)
ーー日本がドイツ式の守備を取り入れ始めたんですかね?
日本サッカー協会は、ドイツサッカー協会とパートナーシップ協定を結んでいますし、ドイツサッカー協会が出している本を翻訳して、その内容を指導者養成のカリキュラムに導入していく方向だとも耳にしたことがあります。
ーーなるほど。
それで、日本代表にも取り入れられたんですかね?
森保さんの耳にも入ってるはずなんで、そうなんじゃないかなって想像はしてます。
ーーそうだとすると、今後は日本はドイツのサッカーに近くなるのかもしれないですね。
はい。
ただ、来週(2019年10月28日)からドイツサッカー協会のA級ライセンスとDFB・エリート・ユース・ライセンスのインストラクターのラルフ・ペーターさんっていう講師の方が、日本のS級ライセンスの講師担当として来日するそうなんですよ。
坂本健二-Ralf Peter
※S級ライセンスの講習会へ講師として日本サッカー協会から招聘され、来日したRalf Peterさんと記念撮影
ーー現状の流れだと、今後はドイツのサッカーを知っている坂本さんの需要が増しそうですね。
そうなると良いんですけどね。
ーー今後の日本のサッカーの為にも、ご活躍を期待しております。