浅野伸太郎の中国のサッカー事情

浅野伸太郎-指導風景②
中国の蘇州でクラブ経営をされている浅野伸太郎氏。
日本人と中国人の違いや中国サッカーについて語っていただいきました。
そんな浅野伸太郎氏のサッカー観や指導論をご覧ください。

プロフィール

(選手歴)
・県立所沢西高校 → 埼玉工業大学
(指導歴)
東村山ラガッツァFC:コーチ(2010〜2012) → 中国蘇州奥博足球俱乐部:コーチ(2012〜2016) → Sporva上海:コーチ(2016〜2017) → 苏州康力足球俱乐部:監督兼代表(2017〜現在)

選手歴・指導歴

――まずは浅野さんの選手歴からお伺いしてもよろしいでしょうか?
選手としては目立った成績とかはないんですけど、サッカーはJリーグが開幕した幼稚園から始めました。
――選手としてはいつまで続けられたのでしょうか?
大学3年生まで体育会系のサッカー部に所属して本格的にプレーしていました。
――就職活動に専念する為に3年生で引退されたんですか?
いえいえ。
元々将来は指導者になりたいとは思っていたんですけど、大学3年生のときに腰のヘルニアになってしまって、そこから指導者に振り切ろうと思ってスパッと引退しました。
――それは辛いご経験でしたね。
そこからの指導者歴をお伺いしてもよろしいでしょうか?
自分の場合は指導者をやりながら勉強ではなくて、勉強から入っているんですよ。
ただ、自分が通っていた大学では指導者の専門的なコースがなかったので、他の大学の体育学やコーチングの授業を聴講生として学んだというのが指導者としての第一歩です。
――たしかに勉強から入られるのは珍しいケースですね。
その後の指導歴はいかがですか?
その後は実家の八百屋を手伝いながら指導者になって、自分が聴講生として通っていた大学の教授からも大学院に進んだ方がいいんじゃない?って言っていただいていたので、受験勉強もするというハードな生活を送っていました。
――三足の草鞋を履かれていたんですね。
その状況での受験は大変そうですけど、大学院の受験はどうだったのでしょうか?
それが残念ながらダメで…。
それで、指導者としてやっていく気持ちが固まって、八百屋の手伝いも切り上げて、思いきって中国に渡りました。
――いきなり中国なんですね。
なぜ中国だったのでしょうか?
日本で日本人と張り合うのは正直どうなのかなと…。
それであれば海外に渡ったほうが差別化できると思ったので中国に渡りました。
――戦略的ですね。
正直言うと、その当時はスペインのサッカーに興味を持っていたのでスペインに行きたいとも思ってたんですよ。
でも、どういう風に行けば良いのかもわからなかったので、それでネットで調べているときに、中国で日本人を対象にしたサッカークラブで指導者を募集しているのを見つけて、とりあえず日本語で指導できそうだしここしかないと思って中国に渡りました。
――すごい行動力ですね。
中国に渡られてからはどのくらいになるんですか?
もうかれこれ8年になります。

現在の活動に関して

――現在の活動に関してお伺いしてもよろしいでしょうか?
自分が運営しているサッカースクールは中国人を対象とした幼稚園から中学までのクラスがあるんですけど、そこに更に、エンジョイクラスとか、レベルアップクラスとか、アカデミーがあって、活動は基本的に週末だけになっています。
浅野伸太郎-指導風景③
――そうなんですね。
平日は活動されていないのでしょうか?
平日は私立の幼稚園と提携を結ばせてもらっていて、自分たち指導者が幼稚園に出向いてサッカー教室を開いています。
――すばらしい取り組みですね。
ちなみに、今いらっしゃるチームはご自身で立ち上げられたんですか?
いいえ。
実は今年の3月(2019年)に所属していたクラブチームの運営がうまくいっていないので、事業を撤退するか、もしくは自分たちに引き渡したいっていう話になったんですよ。
――それで引き受けられたんですね。
はい。
いろいろと考えたんですけど、自分たちで引き受けて独自にやっていこうっていうことで、今はオーナーというか代表をやらせていただいています。
――運営を引き継がれてまだ間もないですが手応えとしてはいかがですか?
中国は一般の家庭だと勉強重視で、文武両道っていう発想があんまりないんですよ。
なので、小学校4年生くらいになると勉強に集中するためにサッカーを辞める子が多くて、このあたりがクラブを運営して行くうえで大変ですね。
――なるほど。
そんなに早い時期から勉強に集中するんですね。
はい。
経営面を考えると、幼稚園ぐらいから始めないと厳しいんですよ。
――なるほど。
それだと、中学生で学校に通いながらサッカーを真剣にやるっていうのは珍しいですか?
結構珍しいですね。
――そんな中で今いる中学生の子供たちを集客するのは大変じゃなかったですか?
いま自分が見ている中学生の子供たちは、その子たちが5年生のときに自分が小学校に派遣されてずっと指導していて、大会でも優勝していたので、保護者もある程度自分のことを認めてくれたので通ってくれてるんだと思います。
――なるほど。
信頼関係が構築できてたんですね。

中国のサッカー事情

――今、中国はサッカーに力を入れていこうということで、国を挙げて取り組まれていますよね?
はい。
サッカーにはめちゃくちゃ力を入れていて、とくに今は小学生年代に力を入れているんですけど、そこに対する投資額は半端ないです。
――どのような取組みをされているんですか?
全国に5万校くらい国で認定されているサッカー特別学校があるんですけど、そこに補助金が相当入っています。
――どのような学校になるんでしょうか?
朝・昼・夜とサッカー漬けで、勉強は二の次で良いよっていう学校です。
――人口が多いとはいえ、そのような学校が5万校というのは凄いですね。
しかも、今年(2019年)の3月からは、幼稚園に対してもサッカーの特別学校をスタートさせていて、既に全国に3,000校弱(2019年現在)認定されているんですよ。
――幼稚園もですか。
国が先導して英才教育を施しているんですね。
はい。
あとは大人自身がサッカーをすることの熱も半端なくて、日本よりも熱はあるんじゃないかなって思います。
――どのような点でそう感じられるんですか?
平日の夜も早い人たちだと18時からサッカーをやっていて、グラウンドの貸し出し時間はどこもだいたい2時間なんですけど、夜の時間帯はほぼ埋まってます(笑)

日本と中国のサッカーの違い

――日本と中国のサッカーの違いって何かありますか?
ゲームという観点だと中学生でも8人制のサッカーをやっている点ですかね。
――中学生でも8人制なんですね。
はい。
プロの下部組織のアカデミーだったりすると、世界を基準にしているのでさすがに11人制なんですけど、地域や街の大会だと8人制でやってますね。
しかも、自分がいる蘇州だと高校でも8人制です。
――えっ、高校でもですか。
ちなみに、コートの大きさはどうなんですか?
フルコートの半分です。
――じゃあ、こちらでいう小学年代と同じ大きさですね。

日本人と中国人の違い

――日本人と中国人の違いって何かありますか?
中国人の子供たちは教育的背景もあるとは思うんですけど、言われたことはめちゃくちゃ頑張ってやるし、できるんですけど、自分で考えて答え出すというのはあまり得意ではないっていうイメージがあります。
――なるほど。
そこは日本人とも似ている気もしますね。
そうですね。
ただ、日本人より顕著かもしれません。
ドリブル・リフティングなんかは、やれっていうとずっとやり続けるんで、このあたりは極端に伸びるんですけどね。
――なるほど。
自分で課題を見つけて何かをするっていうのが苦手なんですね。
はい。
なので、サッカーというのはそういうものを改善するには良いツールなんじゃないかなって思ってて。
――たしかに。
サッカーは常に局面が変わりますしね。
はい。
小学年代は海外のチームにも勝てるんですけど、ユース年代になるとあきらかに海外と差が出て勝てなくなるのはそのあたりじゃないかなと思います。
――ここは指導の問題になるんでしょうか?
国民性の問題もあるとは思うんですけど、結局、指導者も本当にサッカーで必要な部分を指導できないんで、差がついてしまっているんだと思います。

中国の部活事情

――英才教育も行われていて、大人のサッカー熱も高いとの事ですが、中国の部活文化っていうのはいかがでしょうか?
部活文化は一応あるんですけど、ただ授業が18時までだったりするので、週に1回早く終わる日の放課後に30分・1時間やる程度で、しかも、ナイター設備が整っている学校も少ないので、冬になると活動があまりできないですし、ここでサッカー人口はガクッと減ってると思うんですよ。
――そのあたりが中国の課題ですね。
はい。
自分はこの年代が1番重要だと思っているので、自分たちのチームが何らかの形で貢献できたらいいなと思っています。

指導者として心がけていること

――浅野さんが指導者として心がけていることは何かありますか?
指導している対象が子供たちなんで、練習中には些細なことでも子供たち一人一人と話をするようにしています。
――どんな話をされるんですか?
良いプレーを褒めるとか、ただ名前を呼ぶだけのときもありますけど、それでも子供たちは笑顔になるんですよね。
浅野伸太郎-指導風景
――名前を覚えてくれてるっていうだけで嬉しいですもんね。
はい。
ただ、もちろん悪いことをした場合には、「これは悪いことだからどうしたらいいと思う?」っていうような問い掛けはしますよ。
――人間教育の部分も担われているんですね。
ちなみに、コミュニケーションという観点では、中国語は行く前から喋れたんでしょうか?
いえ、一切喋れませんでした。
――どのくらいでマスターできるもんなんですか?
正直8年経ってますけど、まだ片言の中国語なんでどうなんだろうなっていうのはありますけど、自分は中国の子供たちにサッカーを教えるようになってから伸びてきたなっていうのがあって、練習中に子供たちにサッカーの用語や、インサイドはなんていうの?とか、インステップはなんていうの?とかを聞きながら覚えていきました。
――実際に飛び込んでコミュニケーションをとったほうが早いんですね。
学校にも通ったんですけど学校の先生は英語と中語語を使って教えるんで、英語も中国語もできない僕には全然意味がなかったですね(笑)

今後の目標

――浅野さんの今後の目標や夢をお伺いしてもよろしいでしょうか?
選手の育成もそうですけど、中国人の指導者の育成もしていきたいなっていうのはありますね。
今いるスタッフは蘇州の地元の人間なので、まずは蘇州からそういったことを広げていきたいです。
――すばらしいですね。
今は現地のスタッフは何名くらいいらっしゃるんですか?
社員1名とアルバイト1名なので、まだまだ規模は大きくないんですけど、ただ、自分のところに来たいって言っている指導者が2人いるので、徐々に組織も拡大させていきながら地元に貢献したいなと考えています。
――それだと、当分日本には帰って来られなそうですね(笑)
そうですね。
そもそも、まだ日本に帰るっていうのはあまり考えていないんですよ。
――そうなんですね。
蘇州は住みやすいですか?
はい。
日本人学校があるので日本人も多いですし、中国国内の中でも成長率の高い街なので、これから発展していきそうで活気があって、しかも、自然もあっていい街ですよ。
――それは住みやすそうですね。
はい。
あとは日本と中国の接続というのも考えていて、いずれ中国の子供たちを日本に連れてきて、どこかのチームの練習に参加させていただいたり、試合なんかができると良いなって考えています。
――異文化交流としてとてもおもろしい企画ですね。
そうですね。
中学生ぐらいだと自分の意見も言えるような年齢だと思うので、どんどん子供たち同士で会話して交流してほしいなって思います。
――その逆もおもしろそうですよね。
日本のチームが中国に行くとか。
はい。
ただ、日本のほうがサッカーは進んでいるので、チームが中国へ行くというよりは、中国に興味がある・中国語を勉強したいっていうサッカー指導者をインターンじゃないですけど、受け入れるというのは考えています。
――ご自身のチームもお持ちですし、それはめちゃくちゃ需要がありそうですね。

告知事項

――最後に何か告知事項などありますでしょうか?
もともと前任の中国人が運営しているときは、スポンサーが付いていたんですけど、今は一切スポンサーが付いていなので絶賛募集中です。
――日本だとスポンサーになるとユニホームやジャージに企業名が入るんですけど、そういったリターンもありますか?
はい、そのあたりも考えています。
あとは日本企業が中国企業に対して、何かを売り込むことも多いじゃないですか?
――はい。
そういったときに、例えば、自分らが生徒の保護者に向けて週に1回クラブ便りのようなものを配信しているので、その中に会社紹介やサービス紹介を入れる事も考えています。
――それは中国人に直接リーチできるので良いですね。
ありがとうございます。
先ほどお伝えしたように費用も近隣のクラブチームより高いので、保護者は経営者を始め富裕層の方々が多いですし、そういったところでもメリットを感じていただけるのではないかなって考えています。
※浅野伸太郎氏のブログはこちら ➡︎ チャイナドリームを掴むのか⁈ 街クラブサッカー指導者