3クラブ合同セレクション
2025年6月21日、埼玉県内で前例のない取り組みが実施されました。
それは、関東リーグ・県リーグ・クラブリーグと、それぞれ異なる舞台で活動する「ゼブラFC、クラブ与野、上尾SC」の3クラブが、ライバルでありながら子どもたちのために手を取り合い、合同セレクションを実施。
そこには、効率や利便性だけでは語れない、育成にかける本気の想いがありました。
今回は、この挑戦に踏み出した3クラブの指導者たちに、合同開催に至った経緯や、その裏側に込めた想いを伺いました。
取り組みのきっかけ
ーー複数チームでのセレクションって、珍しいと思いますが、どうしてこのような取り組みを始めようと思ったのですか?
(上尾SC)高橋 恭介:もともと2年ほど前から、みんなで県外に研修に行ったり、何かと協力して活動してきた背景があったんです。
そんな中で「何か一緒にやろう!」という話になり、ゼブラFCの山田氏が発起人となり、今回の企画が立ち上がりました。
ーーでは、三チームが集まったのも自然な流れだったのですね。
(上尾SC)高橋 恭介:はい。とりあえず、「一度やってみようか」という話になり、セレクションを3チームで合同で開催する形になりました。
子どもたちにとっても、1回の参加で3つのチームのセレクションを受けることができるのは、非常に効率がいいと思います。
ーー確かに、その場で複数の選択肢を得られるのは魅力的ですね。
(上尾SC)高橋 恭介:そうなんです。
例えば、第1志望ではなかったチームから合格をもらって、「どんなチームだろう?」と調べるきっかけになることもあると思うので、そこがこの取り組みの良さだと思います。
ーー各チームの立ち位置が異なるからこそ、自分に合ったチームを見つけやすそうですね。
(上尾SC)高橋 恭介:まさに、そこが今回の狙いです。
私たち3チームは、それぞれ関東リーグ・県リーグ・クラブリーグと異なるカテゴリーに所属しており、子どもたちにとっても「自分の実力を知る良い機会」になると思っています。
ーー違いがはっきりしているので、わかりやすいですね。
(上尾SC)高橋 恭介:そうですね。ただ、立ち位置が違えば「どのチームでもいい」ということではなくて、同じ志を持って、子どもたちの育成に真剣に向き合っているチーム同士だからこそ、今回こうして協力することができました。
お互いを尊重し合える関係性があるからこそ、実現できた企画だと思っています。

ーー通いやすさにも配慮されていると伺いました。
(上尾SC)高橋 恭介:はい、そうなんです。
今回は、大宮駅を中心に、実際に通えるエリアのチームに限定しています。
さらに、それぞれのチームが週末に安定して活動できる練習会場を確保しているのも、大きなポイントです。
ーー近くのチーム同士だからこそ、生まれる関係性やメリットもありそうですね。
(上尾SC)高橋 恭介:そうですね。
たとえ別のチームに進んだとしても、練習試合などで顔を合わせる機会もありますし、お互いの成長を感じられる。
そういった意味でも、地域に根差したチーム同士の取り組みとして、大きな価値があると感じています。
ーー保護者や選手にとっても、安心してチームを選べそうです。
(ゼブラFC)山田 育也:はい。たとえば、セレクションで落ちてしまった子が「もう部活でいいや」と諦めるのではなく、仲の良い別のチームに再チャレンジするという流れが自然にできるんです。
そうやってなるべく取りこぼしを減らしていくことも、この取り組みの大きな目的の一つです。
指導者の協力関係に関して
ーー今回のような指導者同士の連携や協力関係について、どのように捉えていらっしゃいますか?
(ゼブラFC)山田 育也:私たちとしては、チーム同士が単に競い合うだけでなく、支え合いながらお互いを高めていける関係でありたいと思っています。
実際、指導者同士でも情報を共有したり、学び合う機会があったりして、子どもたちだけでなく、私たち自身にとっても大きな成長の場になると思います。
ーー来年以降の展望などはありますか?
(上尾SC)高橋 恭介:そうですね。来年は、各チームが本格的なセレクションを始める前の段階で、今回のような「合同セレクション」を先にやれたらと考えています。
その段階で各チームの概要を知ってもらうことで、「このチーム、いいな」「こういうクラブなんだな」といったことを、選手たちが事前に把握できますよね。
ーーそれで単独のセレクションを受ける時には、より具体的な目的意識が持てると。
(上尾SC)高橋 恭介:そうなんです。
一度見ておくだけでも印象は変わりますし、「思っていたのと違った」と気づくきっかけにもなると思います。
合同セレクションのメリット
ーー複数のチームを一度に比較できる機会があると、子どもたちにとってどんなメリットがあると感じますか?
(ゼブラFC)山田 育也:やっぱり「自分の立ち位置を知ることができる」というのは大きいと思います。
たとえば「クラブ与野に行きたかったけど落ちた。でも別のチームでは評価された」ってなった時に、「あ、自分のレベルってこのあたりなんだな」と実感できる。
それってすごく大事だと思うんです。
ーー逆に思っていた以上に通用すると感じることもあるかもしれないですね。
(上尾SC)高橋 恭介:そうなんです。「自分はまだまだだと思っていたけど、合格できた」という子も出てくると思うんです。
それを知るだけでも、今後の目標設定やチャレンジの仕方が変わってくると思います。
ーーそう考えると、このフォーマット自体、もっと広がると良いですね。
(ゼブラFC)山田 育也:他の地域でもぜひ真似してやってほしいです。
県内で広がっていけば、北部でも南部でも、地域のクラブ同士がもっと連携できるようになりますし、「〇〇クラブと取り合いになった」なんていう摩擦も、きっと減ってくるんじゃないかと思います。
ーー確かに、チーム同士が協力することで、選手にとってもより良い環境が生まれそうですね。
(ゼブラFC)山田 育也:はい。クラブ同士が対立するのではなく、選手たちの未来のためにどう連携できるかを考える時代だと思います。
今後は、いかに“取り合う”のではなく“支え合う”かが大事になってくる気がします。
ーー少子化の影響も、やはり感じていらっしゃいますか?
(ゼブラFC)山田 育也:そうですね。やっぱり子どもの数が減っているというのは、どのクラブも実感していると思います。
だからこそ、1人ひとりの子を丁寧に見て、チャンスを与えられる環境づくりがより重要になってきますよね。
ーーこの取り組みが今後、さらに広がっていけばという想いもあるのでしょうか?
(ゼブラFC)山田 育也:もちろんです。もし各地域で同じような形が広まっていけば、「あのスタイルを最初にやったのって、うちらだったよね」って、ちょっと誇らしく言えるかもしれませんしね(笑)。
でも本当にそれくらい、“最初の一歩”って大きいなと感じています。

ーー関東リーグにも所属していて、多くの選手が個別セレクションに集まると思いますが、どうして今回参加されたのでしょうか?
(クラブ与野)中森 翔太:やっぱり通常のセレクションって、短い時間の中で判断しなくちゃいけないので、どうしても“見切れていない子”や“評価しきれない子”が出てきてしまうんです。
ただ、うち単体でやっていると、「追加で見たいな」と思っても、判断がぶれるように見えてしまうこともあるんですよね。
ーー確かに、追加で実施するのは難しい部分がある気がします。
(クラブ与野)中森 翔太:そうなんです。
だから今回のように「もう一度、別の形で見られる機会」があるのはありがたいですね。
実際、個別セレクションでは合格を出せなかった子が、今回の合同セレクションにもう一度参加してくれて、パフォーマンスを見たら「これはいける」と思える場面もありました。

ーータイミングやその日の選手同士の組み合わせによって、見え方って変わりますもんね。
(クラブ与野)中森 翔太:本当にそうなんです。
うちは第1クール・第2クールみたいな形でセレクションをやるんですけど、たとえば第1クールに同じタイプの選手が集まったとき、どうしても比較になってしまって、どちらか一方しか取れない。
でも第2クールではそのタイプの選手が全然いなかった、なんてこともあります。
だから、別の機会に見られるというのは、選手にとっても我々にとってもすごく意味のあることなんです。
ーー今日は何人くらい参加されているんですか?
(クラブ与野)中森 翔太:正直、最初は30人ぐらい集まれば御の字かなと思っていたんですが、蓋を開けてみたら90人近く集まって、本当に驚きました。
ーーそれはすごいですね! 告知はどういった形で行ったんですか?
(クラブ与野)中森 翔太:それぞれのクラブのSNSを使って発信しただけなんです。
それだけでここまで集まるとは思っていなかったので、やはり保護者や選手の関心の高さを実感しましたね。
ーー来年以降も継続の予定はありますか?
(クラブ与野)中森 翔太:もちろん考えています。
これだけ多くの方に参加していただけたので、続けていきたいですね。
ただ、今回、準備期間は短かったので、次回以降はもう少し早めに準備して、さらに良い形で提供したいと思っています。
保護者インタビュー
合同セレクションに参加した3組の親子に話を聞きました。
セレクションで一度不合格だったチーム。
それでも「もう一度チャレンジしたい」という強い想いを持ち続けた息子に、再びチャンスが巡ってきた――。
「一度に複数チームに見てもらえるなんて、すごく効率的でありがたい」
「何より子どもにとって選択肢が広がるのは、とても良いことだと思う」
そんな言葉の一つひとつから、保護者としての想いと、子どもにとって最良の選択肢を探す真摯な姿勢が伝わってきました。
今回は、実際にこのセレクションに参加された保護者のリアルな声をお届けします。
保護者インタビュー①

ーー今回の三チーム合同セレクション、率直にどう感じられましたか?
まず「ありがたいな」と感じました。
1度に3チームの目が届くというのはとても効率的ですし、実際に複数のクラブに見てもらえる機会というのは、なかなかないので、本当に貴重だと思いました。
ーーこれまでに、個別のセレクションなどには参加されていたのでしょうか?
はい、すでに他のクラブの個別セレクションも受けていました。
だからこそ、今回のように合同で一気に見てもらえるというのは、新しい形で良いなと感じました。
ーー確かに、通常はそれぞれのセレクションに足を運ばなければいけませんよね。
はい。そういった意味でも、こうした取り組みはとても便利ですし、斬新だと感じます。
ーー保護者の立場から見て、今後こういった機会が増えることについては、どう思われますか?
やっぱりありがたいですね。
保護者としても助かりますし、何より子どもにとって選択肢が広がるのは、とても良いことだと思います。
ーーでは次に、チーム選びに関してお聞きしたいのですが。
どういった観点でチームを選ばれていますか?
まずは、そのチームが所属しているリーグのカテゴリーですね。
関東リーグなのか、県リーグなのか、といった部分は気になります。
それと、やはり自宅からの距離です。
近い方がいいなとは思っています。
ーー距離の目安としては、どれくらいを考えていますか?
そうですね、やっぱり近ければ近いほどありがたいですが、MAX「片道1時間以内」くらいが理想かなと思っています。
中学生になると、体の成長を考えてもしっかり睡眠時間を確保しないといけませんし、サッカーだけでなく学校の勉強との両立も必要になってくるので、移動時間はやはり重要な要素だと感じています。
ーー確かに、学業とのバランスも無視できないですね。
はい。そういったことも含めて、どんな環境でサッカーを続けられるかは大切にしています。
保護者インタビュー②

ーー今回3チーム合同のセレクションに参加された経緯をお伺いしてもいいですか?
保護者A:
3チーム合同という形式はこれまでに経験がなかったので、「どういった内容なんだろう?」と興味がわいて、今回参加させていただきました。
ーー確かに、ちょっと珍しい形式ですよね。
保護者B:
うちは、息子がとても入りたがっていたチームがあったんですが、一度チャレンジして不合格になってしまって…。
でも今回、もう一度チャンスをいただける形になって、本当にありがたかったです。
ーーなるほど、それはとても大きな意味のある機会でしたね。
実際に、1回の参加で複数のチームに見てもらえるというのは、参加する側としても大きなメリットだったのではないでしょうか?
はい、それはもう本当にその通りで。
1度に3チームを見てもらえるって、ありそうでなかったですよね。
通常だと、1チームずつそれぞれ日程を調整して足を運ばないといけないので、親としてもかなり大変で…。
ーー確かに、日程や移動の負担もありますもんね。
そうなんです。
なので今回のように、1回で複数のクラブと出会えるというのはすごく効率的ですし、保護者目線でもありがたい取り組みだなと感じました。
ーーでは次に、チーム選びに関してお聞きしたいのですが。
どういった観点でチームを選ばれていますか?
やっぱり一番大事にしているのは、「息子に合っているかどうか」ですね。
たとえば、そのチームが関東リーグに所属しているのか、県リーグなのか…というカテゴリーはもちろん気になりますが、それ以上に、実力や性格に合っているかを見ています。
ーー「どこに入れるか」ではなく、「どこが合っているか」という視点なんですね。
そうですね。
うちはそこをすごく大事にしています。
あとはやっぱり、通える距離にあるかどうかも大きいです。
生活の中で無理なく通えるか…というのは現実的な問題なので。
ーー通いやすさって、大切なポイントですよね。
本当にそう思います。
それに加えて、実際の試合を観に行くことで、そのチームの雰囲気がよく見えてくるんですよね。
プレースタイルやコーチの声かけ、保護者の様子なども現地で感じることができて、「合いそうかどうか」がすごくよくわかります。
ーー試合を観に行ったときは、どういったところを意識して見ていますか?
やっぱり、選手たちの雰囲気やチーム全体のまとまり、ベンチの声の出し方などですね。
その場の空気感を感じ取ることで、「うちの子に合いそうかどうか」が自然と見えてくる気がします。
また、最近は、YouTubeやSNSで試合の様子やチーム紹介の動画も見られるので、息子自身もそういったものをチェックして、「このチーム、いいな」とイメージを膨らませているようです。
編集後記
“競い合い”から “支え合い”へ──。
子どもたちの未来に向けた、育成の新しいかたち。
今回の取材を通して感じたのは、「選ばれる側」と「選ぶ側」のどちらにとっても、育成の現場が大きく変化しているということでした。
合同セレクションという試みは、単に“効率がいい”という以上に、育成年代のサッカーにおける「本質的な優しさ」と「合理性」を両立させた、新しい選手発掘の形でした。
チーム同士が競い合うのではなく、連携し合う。
セレクションでの“取りこぼし”を減らし、子どもたちに「もう一度チャンスを与える」姿勢には、真摯な育成への想いがにじんでいました。
一方、保護者の方々の声にも、子どもたちの未来に向けた「現実的な視点」と「親心」が詰まっていました。
“強いチームに入れるか”ではなく、“その子に合っているか”。
通える距離や学業との両立、プレースタイルや雰囲気といった部分まで、保護者は実に多角的にチームを見ています。
YouTubeやSNSで情報を集め、試合現場に足を運ぶ。
それは、サッカーが「単なる習い事」ではなく、家族の人生設計の一部になっていることを示していました。
今回の取り組みはまだ“最初の一歩”かもしれません。
けれど、参加した指導者・保護者の誰もが「この形がもっと広がってほしい」と口を揃えていたのが印象的でした。
少子化が進む今、これからの育成年代のスポーツには、選択肢と柔軟性、そして“つながり”が必要です。
子どもたちが自分の力を正しく知り、無理なく、自分らしく成長できる環境とは何か。
その答えに、ほんの少し近づけたような気がする合同セレクションでした。
(ジュニアユースナビ 編集部)


