上尾の「部活動改革」事業

部活動の地域移行が進む中、埼玉県上尾市では令和8年8月の完全実施に向け、様々な実証事業を通して課題の抽出と対策が進められている。
生徒への専門的な指導の提供、教員の負担軽減、そして生徒自身の興味関心に合った種目を選べるようにすることを目指し、地域と学校が連携した新たな部活動の形を模索している。
今回は、上尾市における部活動の地域移行の現状と課題、そして今後の展望について、上尾市教育委員会の玉造勇輝氏に話を伺った。
上尾市教育委員会
学校教育部指導課・上尾市教育センター
副主幹 兼 指導主事
玉造勇輝
部活動の地域移行の目的
ーー部活動の地域移行の目的を教えてください。
玉造勇輝: 部活動の地域移行には、主に3つの目的があります。
①教員の働き方改革
部活動指導は、教員の負担が大きい業務の一つです。
休日の学校部活動の地域移行により、教員の負担を軽減し、本来の業務に集中できる環境を整えます。
②生徒への専門的な指導の提供
地域クラブには、専門的な知識や指導スキルを持つ指導者がいます。
生徒は、より専門性の高い指導を受けることで、技能向上や新たな発見につながることが期待されます。
③自己の興味関心に合った種目を選べるようにする
少子化の影響で学校のクラス数が減り、配置できる教員数が減っているので、部活動の設置数が減っている地域では、地域クラブがその受け皿となることで、生徒の選択肢を増やし、多様な活動機会を提供できるようになります。
ーー具体的な取り組みとしては、土曜日や日曜日に活動されていますよね?
玉造勇輝:現在は移行期間で、学校部活動と地域クラブが並行して活動しています。
学校部活動も休日にも行われていますが、令和8年8月の地域クラブ活動完全実施を見据えると、今から準備を整えることが重要です。
そのため、現在は学校部活動で使っていないことが多い日曜日の空いているグラウンドなどを活用して地域クラブの活動を行いつつ、AGEO地域クラブの体制整備を進めています。
ーー移行期間終了後は、平日も地域クラブに移行していくのでしょうか?
玉造勇輝: スポーツ庁もまずは休日の学校部活動の地域移行を進めており、我々も休日に取り組んでいますが、将来的には当然平日の移行も視野に入ってくると思います。
部活動の地域移行における課題
ーー上尾市における部活動の地域移行の詳細を教えていただけますか?
玉造勇輝: 上尾市では、令和4年度より、検討を開始し、これまでに多様な実証事業の実施を通して、課題の抽出を行ってきました。
ーー課題は何か見つかりましたか?
玉造勇輝: 昨年度はソフトテニス、バレーボール、陸上の3つの種目で実証事業を行ったのですが、運営方式がそれぞれ異なり、教育委員会として管理する上で難しさを感じ、運営方式をある程度揃えることが重要だと痛感しました。
ーー何か対策は取られたのでしょうか?
玉造勇輝: 今年度は7種目で実証事業を実施していますが、運営業務を市内所在の総合型地域スポーツクラブ「サンワXエナジークラブ 」に委託し、統括コーディネーターとして、全種目の地域クラブ活動を管理運営していただいています。
ただ、実はサッカーは7種目に入っていないんですよ。
ーーそれはなぜでしょうか?
玉造勇輝: サッカーは当初、実施主体となる団体・クラブチームが見つからなかったんです。
ただ、 大石南中学校の根井教頭先生から、上尾市中学校体育連盟サッカー専門部を中心に取り組んでも良いというお話をいただき、チャレンジ事業の形で現在実施しています。
活動に関して
ーー毎回どのくらいの生徒が集まっているのでしょうか?
玉造勇輝: 20~25名程度の申し込みがありますが、当日欠席者もいるため、今日は16名ほどの参加です。
ーー部活動と掛け持ちしている生徒さんが多いのでしょうか?
玉造勇輝: そうですね。
ただ、以前サッカー未経験の子が参加した際、練習試合でゴール前まで迫る場面があり、非常に楽しそうでした。

ーー学年は混ざって活動しているのでしょうか?
玉造勇輝: はい、但し、1、2年生のみです。
中学3年生は受験期のため、今年度は1、2年生のみで活動していますが、次年度以降は3年生にも活動の場を提供したいと考えています。
ーー中体連の大会には参加はできますか?
玉造勇輝: 現状では中体連の大会への参加は行っておりません。
現在、地域クラブとして中体連の大会に参加することは特例となっており、あくまでも学校部活動から大会に参加することが基本となっています。
今後、地域クラブとして中体連主催大会に出場することは課題の1つです。
ーー練習試合はいかがですか?
玉造勇輝: 多くの練習試合を行っていて、生徒の満足度は非常に高いです。
来年度以降も、他のチームとの交流も積極的に行いたいと考えています。
ーー現在参加費はどのくらいでしょうか?
玉造勇輝: 学校部活動は無償のイメージがありますが、地域クラブでは集金システムやアプリを導入し、スポーツ安全保険への加入費などを含め、ワンコイン程度の参加費で参加できるようにしています。
ーー企業からの協賛もありますか?
玉造勇輝: はい、AGEO地域クラブ統括コーディネーターのサンワXエナジークラブ 沼田真伍理事の御尽力により、2社から協賛をいただいています。
ーー協賛企業の情報は公開されるのでしょうか?
玉造勇輝: 現在、協賛に対する明確な対価は設けていませんが、来年度は企業パートナーシップ制度を設け、企業ロゴを掲載した活動用ウェア等の使用を検討しています。
先日、埼玉県の行事で発表させていただいた際には、協賛企業様のこともご紹介しました。

周知活動に関して
ーー現在、周知活動はどのように行っていますか?
玉造勇輝: 上尾市教育委員会ホームページに「部活動改革に係る特設ページ」を作成しています。
また、その掲載されている情報をもとに、市内保護者向けのリーフレットも作成・配布しています。
ーーリーフレットは学校を通じて配布しているんですか?
玉造勇輝: 基本的には学校メール配信システムを使った電子配布がメインです。
ホームページには過去の資料も全て掲載しているので、一度ご覧いただきたいです。
ーーSNSの活用などはいかがですか?
玉造勇輝: AGEO地域クラブとして、SNSの活用は積極的に行っていきたいと考えています。
先行実証の1つとして、、サッカーではInstagramも立ち上げてもらい、効果測定を行っています。
将来的には、種目や拠点が広がった際に、より効果的な周知活動をできるようにしたいので、情報発信は非常に重要だと考えています。
今後の目標
ーー今後の展望を聞かせてください。
玉造勇輝: 今年度は7種目各1拠点で実証事業を実施していますが、上尾市は広く、中学生も6,000人程度いるため、各種目1拠点では不便です。
アンケートでも、活動場所が遠いという意見が最も多く、保護者からは送迎不要な環境を望む声も上がっています。
そのため、東西に拠点を設け、種目も19種目(運動14、文化芸術5)程度に増やし、特に人気の高い種目には2拠点ずつ設け、計28拠点での活動を目指しています。
ーーその他に、今後挑戦したいことはありますか?
玉造勇輝: 上尾市では、部活動の地域移行を機に、これまで学校部活動では設置できなかった種目にも挑戦したいと考えています。
先日行ったゲートボール体験会では、子どもたちはもちろん、平均年齢75~80歳の指導者の方々が本当に楽しそうで、子どもたちに教えることで貢献を実感し、生きがいを感じている様子が見られました。
ニュースポーツやパラスポーツは、子どもたちの可能性を広げるだけでなく、地域の方々の生きがいにもつながる、地域活性化にも貢献できる取り組みだと感じていますので、今後は、これらの種目にも積極的に挑戦していきたいと考えています。
運営に関して

「部活動がなくなる」
スポーツ用品販売業を営む沼田真伍氏は、先生方との会話の中で危機感を覚えた。
「それならば、自分たちで何かできることがあるはずだ」
2019年、上尾市で部活動の地域移行が本格化するよりも前に、沼田氏たちは独自の活動をスタートさせた。
平日の夜、部活動を終えた子どもたちのためにテニスの講習会を開いたのだ。
今回は、AGEO地域クラブ統括コーディネーターのサンワXエナジークラブ 沼田氏に、その歩みと未来への展望を伺った。
総合型地域スポーツクラブ
サンワXエナジークラブ
(理事)沼田真吾
運営を始めたきっかけ
ーー運営を始めたきっかけを教えていただけますか?
沼田真伍:本業としてスポーツ用品の販売など、スポーツ関連の仕事をしているのですが、先生方と話をする中で「部活動がなくなる」という話を聞いたんです。
それを知ったとき、単にスポーツ用品の販売機会が減るだけでなく、ソフトテニスをはじめとしたスポーツ全体の競技人口が減少してしまうという懸念がありました。
ーーそれで、2019年から独自に活動を始められたんですね?
沼田真伍:そうですね。
問題が起きてから慌てても遅いと思い、2019年に市の事業ではなく、自分たちで活動を始めました。
ーー具体的にはどのような活動をされていたのでしょうか?
沼田真伍:平日の夜、子どもたちが部活動を終えた後の19時から21時の時間を活用して、テニスの講習を開きました。
ーー始めるにあたって不安はありませんでしたか?
沼田真伍:これまでにもスポーツの講習会を開催してきたので、大きな不安は感じませんでした。
ただ、始めた当初は認知度が低く、人が集まるかどうかが少し不安でしたね。
でも、何よりも子どもたちと関わることが本当に楽しく、充実感が大きかったです。
ーープラスの面が大きかったんですね。
沼田真伍:はい、圧倒的にプラス面の方が大きかったです。
私たちはスポーツ用品を販売する立場なので、子どもたちのプレーを間近で見ることで、新たな商品開発のヒントを得たり、「この子にはこういう商品が合うのでは?」といった発見がありました。
そういった取り組みが、結果的に子どもたちの技術向上にもつながったと思います。
ーー技術向上につながったというのは、子どもたちにとっても大きな喜びですね。
沼田真伍:そうですね。
それに、以前指導していた子どもたちが成長し、今では立派な指導者として戻ってきてくれることもあり、中には、上尾地域クラブで指導者として活躍している子もいるんですよ。
その姿を見たとき、本当に「やって良かったな」と心から思いました。
具体的なサポート体制
ーー具体的な運営のサポート体制について教えてください。
沼田真伍: 参加者の申し込み管理、振り分け、名簿作成などを行っています。
各指導者には参加者の情報を提供し、必要な備品などの要望も吸い上げ、問題が起こる前に解決できるような、コミュニケーション重視の体制を築いています。
また、スポーツ安全保険の加入といった事務作業も全て運営側で担当しています。
ーー裏方の業務はほとんど担っているんですね。
沼田真伍: 指導者の方々に負担をかけすぎると指導者になるハードルが上がってしまうので、指導者には指導に集中してもらい、事務的なことは運営がサポートする形を取っています。
今後の展望
ーー今後の展望はありますか?
沼田真伍: 活動内容を動画で発信し、文章だけでは伝わりにくい子どもたちの様子や成長を映像で提供することで、保護者の方々にご理解いただける環境を作りたいと考えています。
また、指導者にとって、より指導しやすい環境を構築していきたいとも考えています。
指導現場より

「部活動は、先生達の働き方改革で練習時間が少ない事を理由に、生徒が入部してこない」
部活動指導に情熱を注ぐ教師にとって、地域移行は魅力的な選択肢となり得る。
上尾市で教師主導の地域移行を推進する根井直樹氏に、その背景や課題、そして今後の展望について伺った。
根井直樹先生
上尾市立大石南中学校教頭
教師主導の地域移行
ーー学校の先生が主体となって地域移行を推進するのは、珍しいケースですね。
根井直樹: たしかに、多くは地域のクラブチームが担っていますからね。
しかし、部活動指導に情熱を注ぐために教師の道を選んだ先生もいますが、私もその1人です。
そうした先生にとって、教師主導の地域移行は魅力があると思います。
ーー必ずしも全ての先生が働き方改革で、部活動の時間が少なくなるのを望んでいるわけではないですからね。
根井直樹: はい。
先日、中学校のサッカー部を指導している先生から連絡がありまして、「部活動は、先生達の働き方改革で練習時間が少ない事を理由で、生徒が入部してこない」と嘆いていました。
現場の先生方の複雑な思いも浮き彫りになっていると感じます。
この取り組みにより、部活動への入部を考えてくれる事を期待しています。
ーー現在、地域指導の現場で感じる課題はありますか?
根井直樹: 先日、サッカー未経験なのに友達に誘われて来た生徒がいました。
でも、どうしてもレベルの差があって…。
「次回来る?」と聞いたら、「無理です」と答えたんです。
ーーレベルの違いが大きな壁になっているんですね。
根井直樹: ええ。だからこそ、もっと幅広い層が楽しめる地域活動にしたいと考えていて、例えば、Aチーム、Bチームという言い方が適切ではないかもしれませんが、自身で選択するレベル別に分け、初心者向けには基礎練習から始められる場を提供するのも一つの方法だと思うんです。
ーー競技レベルやモチベーションに応じた環境づくりも考えられているんですね。
根井直樹: 実は、川口市の野球(KAWAGUCHI CLUB)で成功しています。
市内に4つの拠点を設け、それぞれの拠点でチームを作り、トップチームはセレクションを経てクラブチームの大会に出場する。
こうした仕組みがサッカーにも適用できるかもしれません。
ーー最終的にはこういった取り組みからサッカー推薦で進路が決まる選手が出てきたら面白いですね。
根井直樹: そうですね。
県内だけでなく県外の私立高校にもお願いして、より多くの練習試合を組みたいと思っています。
この取り組みを通じて、多くの子どもたちが自分の可能性を広げ、夢を追いかけることができるような環境を作っていきたいです。


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